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- メキシコ中銀、関税政策の今後が気が気でない
メキシコ銀行は5月15日の金融政策決定会合で政策金利を0.5%引き下げて8.5%にすることを決定した。背景はインフレ圧力の低下やペソ高、景気回復の鈍化など挙げられる。声明では次回も大幅な利下げの可能性を示唆した。4月のインフレ率は物価目標の範囲内で、利下げを進めやすい環境だが、米国の通商政策には今後も注意が必要だ。特にUSMCAの見直しによるメキシコ経済への影響を注視したい。
メキシコ中銀、市場予想通り大幅利下げを継続、トーンはハト派より
メキシコ銀行(中央銀行)は5月15日に金融政策決定会合の結果を発表し、市場予想通り政策金利を0.5%引き下げ8.5%とすることを決定した(図表1参照)。利下げは7会合連続であるうえ、2月、3月に続き0.5%の大幅利下げを全会一致で決めた点でハト派(金融緩和を選好)寄りと見られよう。
声明文の主なポイントは、インフレ圧力が前回(3月)会合に比べ改善が示唆されたことだ。また、利下げを継続する要因として、足元のペソ高傾向(図表1参照)と景気回復の鈍化が加えられたことも挙げられる。これらを背景に、フォワードガイダンス(今後の金融政策の方針)では次回の会合でも大幅利下げの可能性があることを示唆した。
メキシコのインフレはおおむね鈍化傾向だが、一時的な上昇も想定される
声明文の主なポイントを以下に振り返る。メキシコのインフレ動向を消費者物価指数(CPI)で確認すると、4月は前年同月比で3.93%上昇と、前月の3.80%を小幅上回った(図表2参照)。しかし、22年9月のピークからは明らかに鈍化傾向であるうえ、物価目標(3%±1%)の上限は下回っており、目標の範囲内と見られる。
なお、メキシコ中銀はインフレ予想において、25年4-6月期を3.9%と、3月会合における3.5%から上方修正した。想定外に商品価格が上昇したためと説明しており、一時的な修正であることを匂わせた。重要な点として、26年後半にインフレ率が3%に向かうという従来からの見通しは維持された。
次に、メキシコの景気動向を4月末に発表された1-3月期のGDP(国内総生産)成長率で確認すると、前年同期比で0.8%増と、前期を小幅上回ったが、長期平均成長率を大幅に下回った。米国の関税政策の影響が背景だろう。また、米国など海外からの送金も前年と比べ伸び悩んでおり、移民政策の影響も想定される。さらに、メキシコ中銀が足元の金利水準を景気抑制的と指摘している。景気動向はハト派寄りの政策を正当化しそうだ。
メキシコペソは年初から緩やかながらペソ高傾向となっている。この背景として米国のメキシコに対する関税政策が当初想定されたほど厳しいものでなかったためと考えられる。自由貿易協定である米国・メキシコ・カナダ協定(USMCA)を結んでいるメキシコやカナダに対するトランプ政権の関税政策は他とは違う対応となっている。
ただし、USMCAは発行6年後の見直しが規定されており26年までの修正などが予定されている。修正内容によってはメキシコ経済に深刻な影響が及ぶことも想定されるだけに、メキシコ中銀も今後のUSMCAの交渉内容を注視する構えだろう。
メキシコに対するトランプ関税の影響は今後の交渉が大きく左右しそうだ
トランプ政権は4月2日に相互関税(世界一律10%と、一部の国・地域に対する上乗せ関税で構成される)を発表した。また、別途自動車など品目別に関税を発動した。これに対し報復関税で対抗した中国への関税が引き上げられたが、市場への影響が深刻であったことや、米中貿易協議の進展で当面は中国に対する関税率は30%、その他の国・地域は10%となっている(図表3参照)。
一方、メキシコ並びにカナダはUSMCA協定があることなどから別対応となった。メキシコを例に、追加関税の根拠法を見ると主に2種類ある。国際緊急経済権限法(IEEPA)に基づく追加関税と、自動車と鉄鋼・アルミニウムについては別途232条が適用されている。このうち、IEEPAの追加関税は、USMCA協定で域内の原産地割合や生産の一定割合の時給を定めた「原産地規則(ROO)」を満たした場合は関税が免除される。一方、ROO準拠であっても232条に基づく関税は免除されず25%が課せられる。仮にROOに準拠しない場合、関税は計算上52.5%となる計算だ(脚注参照)。
なお、5月1日発表された自動車部品に対する関税のガイダンスによると、USMCAに基づく特別関税措置の対象となる部品については追加関税が「ゼロ%」とすることが発表された。米国の自動車部品輸入に占めるメキシコの割合は約4割と高いだけにメキシコにとっても朗報だろう。
ただし、USMCAを利用してメキシコを経由した中国などからの輸出に対するトランプ政権の警戒感は相当強い。トランプ大統領はUSMCAが不必要とまで述べている。同大統領特有の交渉を有利に進めるための発言と思われるが、来年に見直しが予定されるUSMCAについてメキシコに厳しい条件を持ち出すことも想定される。これまでも原産地規則を満たす基準として3ヵ国で生産された割合を引き上げるなど適用条件の厳格化が行われてきた。今のところUSMCAの交渉で目立った進展は報道されていないが今後の展開に注意は必要だ。
メキシコの金融政策は短期的にはフォワードガイダンス通りと筆者も見込んでおり、当面利下げが続くと見ている。しかし、来年に向けUSMCA交渉が金融政策に影響を与える可能性には最大の関心を払っている。
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